「産後は体を冷やさないで」と言われたのに、外は猛暑。クーラーをつければ寒い気がするし、消せば汗だくになる。夏に産んだ人の産褥期は、この板挟みから始まります。
先に結論を言うと、クーラーは使って大丈夫です。我慢するほうが、体には負担になります。この記事では、冷やしすぎない使い方と、夏ならではの汗との付き合い方を、順番に考えていきます。
夏の産後、体の中で起きていること
産後の体は、赤ちゃんと過ごした十月十日から、ゆっくり元に戻ろうとしています。悪露が続き、汗が増え、疲れやすい——回復の途中の体に、夏はさらに暑さが乗ります。
お産は、体の中の蓄えをごっそり使う大仕事です。だから昔から「産後は休む・冷やさない」と言われてきました。失った分を、時間をかけて取り戻す時期だからです。ただ、この知恵が生まれた時代に、クーラーはありませんでした。
「冷やさないで」は、クーラー禁止という意味ではない
昔の「冷やすな」は、すき間風の入る家で、冷たい水仕事をしながら休む——そんな暮らしの中での知恵でした。今の夏は事情が違います。閉め切った部屋で冷房なしに過ごすほうが、体力を消耗してしまいます。
大事なのは「使うかどうか」ではなく、「冷えを体のどこで受けるか」です。
- 風を直接体に当てない——風向きは天井や壁へ。寝る場所を吹き出し口の下からずらすだけでも違います
- 入れたり切ったりより、つけっぱなし——こまめに消すと室温が上下して、汗をかいては冷える、を繰り返します。ゆるい温度で連続のほうが体は楽です
- 首・足首・お腹まわりに1枚——全身を着込む必要はありません。冷えは入り口が決まっています。そこだけ、薄手のもので守るのです
じつは私自身、かなりの冷え性で、夏でも腹巻とレッグウォーマーと首巻きが手放せない人間です(あとで書きますが、産後のお母さんとしては少数派です)。ただ、冷え性でなくても、クーラーの効いた部屋は外が真夏でも「冷える場所」になりえます。寒いと感じたら我慢せず、冷えの入り口を選んで守ってあげてください。
設定温度の「正解の数字」は、家の造りや部屋の向きで変わります。あなたが汗をかかず、寒いとも感じないところが、その家の正解です。服装で言うと、薄手のパジャマで、暑くも寒くもない格好——それがちょうどいい室温の目安になります。
赤ちゃんとあなた、どちらに合わせる?
「この室温、私はちょうどいいけれど、赤ちゃんには寒くない?」——夏の産褥期で本当に迷うのは、案外ここかもしれません。
安心してほしいのですが、産後ケアの訪問先で、赤ちゃんのために暑さを我慢しているお母さんには、あまり出会いません。産後のお母さんは体温が高めで、汗が増えたり暑く感じたりする方が多いからです。室温はまずあなたが快適なところに合わせて、赤ちゃんのほうを肌着や掛け物1枚で調整する——それで、たいてい折り合いがつきます。赤ちゃんの手足は冷たく感じやすいので、暑さ・寒さの目安は首や背中で確かめてあげてください。
ただし、ひとつだけ気をつけたいことがあります。冷えをきっかけに体調を崩したり、授乳がつらく感じたりする方もいます。胸や肩まわりが寒いと感じるときは、一枚羽織るなどして調整してみましょう。胸の痛みや熱っぽさが出たときは、我慢せず早めに産院や助産師に相談を。
汗が多いのは、体が回復に向かっているサイン
夜中に着替えが必要なほど汗をかいて、驚く方が少なくありません。産後は、妊娠中に増えた水分を体の外へ出していく過程のひとつと考えられていて、汗が増えるのは自然な経過です。夏はそこに暑さの汗も重なるので、量に驚いてしまうのですね。
付き合い方はシンプルです。
- 拭く・着替える——濡れた肌着のままでいると、そこから冷えます。汗をかくこと自体より「かいた後」のケアを
- 水分は「少しずつ、こまめに」——授乳中はとにかく喉が渇きます。ただ、がぶ飲みは、飲み物の冷たさに関係なくおすすめしません。喉が渇く前から、少しずつこまめに飲むほうが、体はうまく受け取ってくれます。冷たい飲み物がつらく感じるときは、常温や温かい飲み物を選ぶのも一つの方法です。枕元に水筒をひとつ置いておきましょう
やらなくていいこと
- 汗だくのまま着込むこと——「冷やさない」は「たくさん着る」ではありません。汗で濡れたまま重ねると、かえってそこから冷えます。守るのは首・足首・お腹、と場所を絞って
- クーラーを消して耐えること——それは養生ではなく、我慢です
- 汗をかくたびのシャワー——拭くだけの日があっていいのです
この季節のひとこと
夏の産褥期は、暑さのぶん、体力の減りも早い季節です。そのかわり、洗濯物はすぐ乾くし、温かくして休む工夫は冬より簡単です。クーラーの効いた部屋で赤ちゃんと横になっている時間は、さぼりではなく、この季節いちばんの養生です。少しでも横になれる時間があれば、それも立派な養生です。



